(以上、熊本の石橋313:熊本日日新聞社発行より) 菊池市竜門ダムの下流約1kmにあり、平成17年秋までは市道として利用されていたが、アーチの亀裂が甚だしく危険だとして平成18年1月10日現在、通行止めになっている。 すぐ近く(100m程上流)に竜門ダムの管理用道路の橋があるためか、特に交通の不便を訴える声も少ないようである。 しかし、危険で通れないのなら維持管理上は早く取り壊したほうが良いという考え方もあり、存亡の危機に立たされている。 平成18年1月4日、菊池市教育委員会文化振興課の阿南亨氏から「どの程度の危険なのか、修理はできないのか」などについての問い合わせがあった。 現地に赴き調査した結果は、下記の通りである。 A 現況について 写真のとおり、ごく一般的な単アーチ石橋で壁石は乱積み、熊本型石橋の典型のような趣である。 下流から見る限り、アーチの形状に歪みも見えず、端正で頑丈な眼鏡橋の印象が強い。 しかし下から見上げると、輪石にかなり大きな亀裂があり、右岸上流の壁石に著しいハラミが見える。 基礎岩盤は花崗岩系、輪石は熔結凝灰岩系(黒曜石の粒子が極端に少ないので断定はできず)である。 路面部はコンクリートによる拡幅ならびに転落防止の高欄が施され、アスファルトで舗装されている。 地覆コンクリートは、石橋の天端石を上下流から挟んで保持しているように見える。 有効幅員は4.0m程度で自動車の離合は難しく、交互通行をしていたようである。 起終点に接続する道路も乗用車一台分の幅員しかない。 通行止めの看板はあるが横をすり抜けられるので、橋を渡ることができる状態である。 B 問題点および原因 |
|
アーチを下から見上げると、右岸輪石に著しい亀裂が見られる。
また、右岸上流の壁石だけが異常にハラんでおり、放置すると壁石が抜け、崩壊に至る可能性がある。 橋体の中詰に小さすぎる粒子の材料が使われると、表面舗装時の転圧による圧縮変形や長期圧密により、 壁石に対して側圧をかける可能性が高い。 虎口橋の場合、壁石がハラんだ結果、輪石を道連れに上流側へ 引き出したことも輪石の亀裂の原因の一つである。 右岸輪石の上流端根石が接する基礎岩盤は河川中心側に勾配がついており、 地震などにより少々ズレ落ちた可能性がある。(右岸輪石の上流端根石が水平ではなく、 1〜2cmほどズリ下がって上部の輪石を順次引き下げているようである。) また、壁石はいわゆる毛抜きアイバに近く、高石垣にはそもそも無理がある。 |
C 修繕して使用できる橋なのか?
D 虎口橋の価値(情緒的視点を含む) 虎口橋のすぐ近くには、龍門橋、迫間橋、長野橋、仲好橋、綿打橋、雪野橋などがあり、 さらに菊池川本流の県指定文化財、立門橋、永山橋など、石橋の密集地帯である。 人が作ったもので百年以上前からある本物の集団は、視点を変えれば非常に重要な財産である。 種山石工の流れとは違う眼鏡橋文化のルーツがあり、そのさまざまな特徴の研究はまだ進んでいない。 素材は近くにある自然の石材であり、公害もなく、静かに山里の風景にとけ込んでいる。 その姿は、現代技術が到達できない「簡素の美」そのものであり、かつ、半永久の命を持つ、土木構造物の究極である。 装飾がまったくない。これ以上は簡素化できない。最低限の物理機能の組み合わせだけで、「美」を見事に創り出している。 眼鏡橋を移設したり解体したりしても、材料はすべて再利用できる。環境問題に人類が気づく前に、 周囲に何の悪影響も与えず、全く無駄の無い社会資本のお手本が、百五十年以上前に造られていた。 鉄筋コンクリートで作る橋の実質耐用年数百年未満に対して、百年を超え、さらにあと百年は大丈夫だろうという石橋も多い。 「本物とは何か?美しさとは何か?」の模範解答が、眼鏡橋、石橋として私たちの目の前にある。 先人の知恵に敬意を表し、大切に扱い、修繕をして現役として活躍させなければならない。 もったいないのである。 |