「通潤橋石管漆喰の作り方と施工方法」の検証

昭和59年3月矢部町初版「重要文化財 通潤橋保存修理工事報告書」より
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  *  「通潤橋仕法書」のうち「漆喰の事」(原文の直訳:原文は縦書き)           *
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 前文の通り、種々様々の試一つとして行われかたく後段の仕法左(下記)のことし。
        
 土五合

   干して能乾たるを合する事、豊後府内初瀬井手の伝なり 坂梨某選られしに、
      初瀬流の干土臼にて搗きふるひを通たるよし、夫故か三十年も経て灰気替らぬ
      との事也。よって土は漆喰に用来る上段を選、干して臼搗ふるひを通す。

 白灰二升
        
   焼灰数月を通しハ灰気もとり、不宣故に日数五十日位に成るを用との儀、御左官
      手の説によって焼立五十日位を用

  砂壱升八合

      水源遠く急流の州にて取塊の交や否やは桶にてとぎ、汁にこりなきときハ、真の
      砂也。夫を用是も御左官手の説也。

 塩壱合

 松葉汁

   二日計煎る

 右(上記)の品々搗合、二日二夜計寝せ猶搗て日に当乾し、もみくだき粉に成りたるを
 手いっぱい握り堅め、手をゆるめたるに三つ四つにも割れる位のしめりを用 火術流
 星筒詰の仕法時候ハ、四月八月二時と御左官手の説也。
 詰ようふは右の土乾き過ぬよふ風気を防ぎ、鶏卵半分だけ位入槌数七十計叩く打様強
 弱なきもふにすること第一也。樋の漆喰穴土を入るる道具左に顕図のとふりそぎ、口
 に土を入詰口に指入、送り棒にて搗き出す破れ樋詰替ハ、三ツ俣のきり手元二撞木を
 はめていきるなり。一日に漸一筋もいきり通す也

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 平成12年現在、この仕法書以外に漆喰に関する建造当時の文献は無い。したがって
 実際に施工する場合は、それぞれの説明を現代語で具体的な施工手順書として、整理
 する必要がある。
 原本直訳には違いないのだが、あまりにも述語・目的語が少なく、このままでは施工
 が難しい。
 行間の背景を可能な限り推測検証して「仕法書」に忠実な施工手順書の作成を試みる。


           検証前に原文を要約するとこうなる?
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 いろいろな実験をしてみたが、何一つ使えるようなものは無く、漆喰については他所
 の過去の実績を参考に、プロである御左官手の指導を仰ぎ、やむなく(^^;)次のよう
 な仕様で行うことにした。

 土五合
   干して充分に乾いた土を使うことが、豊後府内の初瀬井出に伝わっており、坂梨
   某氏が選び奨めるには、初瀬の方法による干した土を臼で搗き、フルイを通す事
   によって、三十年経っても性質が変わらない、という事である。従って漆喰に用
   いる槌は上質のものを選び、干して臼で搗き、フルイを通す。

 白灰二升
  (何かを)焼いた灰を数ヶ月放置すると灰気も取れるので、いうまでも無く五十日
   位経ったものを用いなさいとおっしゃるので、御左官手の説により、焼いたのち
   五十日位経ったものを使用する。

 砂壱升八合
   水源からは遠く離れた、急流の州(中洲など。土や砂が堆積して水面上に現れた
   所。)から取る。塊りが混じっているかいないかは、桶(木のバケツ)の中でと
   いで(ご飯を「とぐ」、とほぼ同意なので、不純物は除く、とも取れる)除去し、
   その洗い水が濁らなくなったのが、ここで言う真の「砂」である。 それを使用
   する。これも御左官手の説である。

 塩壱合

 松葉汁
   二日程度、煮る

  以上の材料を搗き合わせ、二日二晩程度ねかせ(熟成させ?)、さらに搗いて日光
  にあてて乾燥させ、もみ砕いて粉になったものを、手いっぱいに握り緊め、手をゆ
  るめると三つか四つくらいに 割れる程度の湿りを持ったものを使用する。火術流
  星筒(火を使う術で、星が流れる筒、すなわち花火)の火薬を詰めるときのような
  やり方。(で行う)
  四月と八月の、年二回しか適当な時期ではないとの、御左官手の説である。
  詰め方は、以上の土(漆喰のことか?)が乾きすぎないように風を防ぎ、鶏卵ほん
  の半分くらいを(漆喰穴に)入れ、槌(つち)で七十くらい叩く。打ち方は強弱が
  ないようにする事が一番気をつけなければならない事である。
  樋(石樋=石管)の漆喰穴土(漆喰?)を入れる道具を次にあらわす。(図:略)
  図のとおりに削ぎ、その口に土(漆喰?)を入れる。詰め口に指し入れ、送り棒で
  突き出す。
  破れ樋(水漏れをする石管?)の詰め替えは、三又のキリで手元に撞き木を取り付
  けて、いきる。
  一日にようやく一筋をいきり通す。

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 以下に、「検証できなければ推測で手順書を作成することになる要因・疑問」を段落
 ごとに抽出し、検証し、最終的には施工手順を、このページで整理することにする。

 ●漆喰のこと
   漆喰について前にも書いたように、様々な試みをしたが、何ひとつうまくいかず、
  (しかたなく御左官手に教えを乞い)最後には、その方法は次の通りとした。

    Q1「御左官手」というのは漆喰の工事に携わったのか? どこの誰か?
    Q2「御左官手」の資料はないか?

 ●土五合
   干して良く乾かしたものを混ぜる事が、豊後府内の初瀬井出に伝っている、坂梨
   某氏によると、初瀬流(初瀬で使用された方法・流儀)による干して良く乾かし
   たものを、臼で搗きフルイを通すと、その為か三十年経っても灰気が替わらない
   という事だそうだ。したがって土は、漆喰に用いるために上等のものを選び、干
   して臼で搗き、ふるいを通す。

    Q1通潤橋の場合、「土」はどこで調達したのか?
    Q2「日に当ててよく乾かし」とは、どのような状態で行うのか?
    Q3「ふるい網」の目はどれくらいなのか?
    Q4「初瀬井出」の資料があれば何かわかるのか?
    Q5「灰気替らぬ」とは、灰の質が変わらない、という意味か?
    Q6 漆喰の質:八斗漆喰・轟水源のがんぜき 参考

●白灰二升
   焼いた灰を数ヶ月放置すると灰気も取れるので、いうまでも無く五十日位経った
   ものを用いなさいとおっしゃるので、御左官手の説により、焼いたのち五十日位
   経ったものを使用する。

    Q1「白灰」とは何か? 「石灰」「貝灰」とは違うのか?
    Q2「焼く」とは、どのように行うのか?

●砂壱升八合
   水源からは遠く離れた、急流の州(中洲など。土や砂が堆積して水面上に現れた
   所。)から取る。 塊りが混じっているかいないかは、桶(木のバケツ)の中で
   といで(ご飯を「とぐ」、とほぼ同意なので、不純物は除く、とも取れる)除去
   し、その洗い水が濁らなくなったのが、ここで言う真の「砂」である。 それを
   使用する。これも御左官手の説である。

    Q1「遠く離れた急流」とは通潤橋周辺より下流か?
    Q2 どの川か?(緑川水系、五老ケ滝川の可能性は?
    Q3 砂の粒径はどれくらいか?(現存する当時の漆喰を調査)

●塩壱合
    Q1「塩」とは何か? 当時の塩は、粗塩(あらじお)だったか?
    Q2 ニガリの成分が既存漆喰から抽出できるか?

●松葉汁
   二日程度、煮る。

    Q1「松葉汁」とはそもそも何か?
    Q2 既に作ってある「松葉汁」を「二日ばかり煮る」のか?
    Q3 それとも「松葉」を煮て「松葉汁」を作るのか?
    Q4 まさか「生松葉の汁」を抽出したのではあるまいか?
    Q5「二日ばかり」というのは、連続して48時間程度なのか? 休むのか?
    Q6 水で煮るのか? (もしかして塩水?) 煮詰める率などは?
    Q7 ナベと熱源はどのようなものか? 火力はどの程度なのか?
    Q8「松葉」とは何か? 松の種類は? 若葉か成葉か落葉なのか?

●  以上の材料を搗き合わせ、二日二晩程度ねかせ(熟成させ?)、さらに搗いて日
   光にあてて乾燥させ、もみ砕いて粉になったものを、手いっぱいに握り緊め手を
   ゆるめると三つか四つくらいに割れる程度の湿りを持ったものを使用する火術流
   星筒(火を使う術で、星が流れる筒、すなわち鉄砲)の火薬を詰めるときのよう
   なやり方。(で行う)

    Q1「品々」を一度に混合して搗くのか? 段階は無いのか?
    Q2「搗き合せ」る道具は当時、臼と杵しか使わなかったのか?
    Q3「寝かせる」とは、保温して熟成を促す、という意味か?
    Q4「寝かせ」かたは、どのように行うのか?
    Q5「さらに搗いて日光にあて」る事にどんな意味があるのか?
    Q6「もみ砕く」とは、どのように行うのか?
    Q7 乾かして粉状になったものは「片手で握り締め」ることが出来るのか?
    Q8 粉状の漆喰には何らかの水分を加え、練り混ぜが必要ではないのか?
    Q9「三つ四つほどにひび割れ」は、気象条件までは加味していないか?
    Q10 火縄銃射撃の体験でもしない限り、火術流星筒の感覚はムリか?

●  四月と八月の、年二回しか適当な時期ではないと、御左官手の説である。

    Q1松葉の適時としか考えられないが、植物学的な根拠か?

●  詰め方は、以上の土(漆喰のことか?)が乾きすぎないように風を防ぎ、鶏卵
   ほんの半分くらいを(漆喰穴に)入れ、槌(つち)で七十くらい叩く。打ち方は
   強弱がないようにする事が一番気をつけなければならない事である。樋(石樋=
   石管)の漆喰穴土(漆喰?)を入れる道具を次にあらわす。

    Q1 どの状態の漆喰を「乾きすぎないよう風を防」ぐのか?
	Q2「槌」はどのようなものか? 形状・その他。
	Q3 鶏卵半分の量に対して七十回も叩いて漆喰に悪影響は無いのか?
	Q4「火術流星筒詰の仕法」は、充填する時の事か?叩く時の事か?	
	Q5 叩き方の度合いがまったくわからない。火縄銃の要領なのか?	
	Q7「強弱ないもふに」の「も」は、「や」か「よ」の読み違いではないか?
●  図のとおりに削ぎ、その口に土(漆喰?)を入れる。詰め口に指し入れ送り棒で
   突き出す。破れ樋(水漏れをする石管?)の詰め替えは、三又のキリで手元に撞
   き木を取り付けて、いきる。一日にようやく一筋をいきり通す。

    Q1 撞木とは何か?どのようなものか?
    Q2 なぜ口を斜めに削がなければならないのか?
    Q3 鶏卵半分の量だけを筒に入れて送り棒で突き出したのか?
    Q4「いきる」は、「い切る・い伐る」で、「い」は接頭語か?
    Q5	

※	その他、施工手順には直接の関係はないが、疑問点。	
    Q1 なぜ、この配合(量)なのか?
    Q2「50日くらいたった」灰が、どのように漆喰に好影響を与えるのか?
    Q3「塩」は、漆喰の組成のなかで、どのような働きをするのか?	


****************** これから先は工事中です **********************************	

     実際に工事に携わった人からの聞き取り資料
     旧矢部農業学校教諭柴本禮三著「布田保之助」より

 漆喰土製造方法
   1、水1斗を釜に入れ、芽松葉新芽1貫目を入れ、之を沸騰せしめて5升に減
     じたる時、その汁を桶に汲み入れ置く。
   2、粘赤土1合を確かに入れ充分搗き砕き合わせ、松油を少し入れて之を溶解
     し小砂(土気を能く洗滌し去りたるもの)2升を入れ能く搗き交ぜたる后
     石灰3升を入れ猶能く搗き交ぜ松油少量及び塩5勺を入れて始めより凡そ
     5時間余り能く搗き交ぜポロポロにする位になし之を搗き堅め置くこと。
   3、翌日之を確かに入れ搗き砕き松油少量入れて3時間余り能く搗き交ぜたる
     後之を使用す。

   搗方は一人は杵を用ひ匙を以て始末上下に交ぜ通し各交代して時間通り能く搗
   き混ぜるものなり。
  「是は当時人選を以て現業に従事せし白糸村小原の住人、原田金治より聞き取り
   たるものを明治35年夏筆記した  ・・・・矢部の生き字引の称ありたる、
   前浜町長林氏の手記による」

   Q1「芽松葉新芽」は、「仕法書」の「四月八月二時」とは不適合では?	
   Q2「粘赤土」は、実際使用した土の表現には違いないが、どの土かの特定。