大分県日田市  名里橋調査報告書
調査日 平成15年2月18日(火曜日)午後
依頼者 大分県日田市田島2丁目6-1
日田市 建設部 土木課 道路係  小埜英郎 主査
調査者 熊本県上益城郡矢部町千滝222−1
日本の石橋を守る会会員
株式会社尾上建設 代表取締役 尾上一哉
 農地整備計画範囲に「名里橋」をはじめとする数件の石橋が点在しており、その計画に
よると現状のまま存置できないようである。石橋の適切な処置方法の模索段階で、移築の
可否等についての判断の依頼があったので、現地に赴き調査を行った。
移築可能な石橋か? 
 名里橋の輪石の基礎にあたる部分の石垣は、単なる石垣積みであり、石橋の重要な構造
の一部として見るべきではないと考えられる。後述するが、かえって名里橋全体に悪影響
を及ぼす可能性が高い。したがって、輪石の基礎部分より上だけを、石橋本体構造として
考えるならば、個々の石材の質(硬さ)は優良なので、移築は充分に可能である。
 九州で石橋に使用されている溶結凝灰岩は、阿蘇4期噴火時生成岩がほとんどであると
いわれ、その質(硬さ)は大きく三段階に分けられる。
 石橋の築造に耐えうる最も「軟」らかい凝灰岩の外観はほとんど黒色であり、金槌で叩
くとカドは簡単に欠けてしまう。この石材で造られた石橋は風化が著しく、凍害を受け易
く、亀裂が多く発生し、亀裂と亀裂の間が砂状になり崩落しているものも多い。
 解体する際に、輪石にかかっていたストレスを抜くと同時にボロボロになる性質の石材
であり、移築は不可能である。ほとんどの部材取替えを要するため、保存とはいえない。
 黒いとも青いともいえない、灰色系の一般的な凝灰岩がある。「加工しやすい、優れた
石材の産出が、九州に石橋を多く生んだ所以」と評される石材がこの「中」程度の硬さを
持った溶結凝灰岩である。金槌で叩けばある程度の抵抗を見せるが割れないわけではない、
といった程度の硬さであり、ごく普通に石橋に使用されている。100年以上経過した石橋
でも、そのほとんどが移築可能な石材のようである。
 最も「硬」い溶結凝灰岩は、金槌で叩くとやや金属的な音と共に槌を跳ね返すといった
感触がある。金槌程度では歯が立たず大型の加工工具や機械を必要とするため、加工費用
は最も大きい。当然のことながら耐久性も、最も大きい。
 名里橋の輪石は、「中」から「硬」の間くらいの硬さで、個々の材料はほとんど風化の
無い、きわめて優良な材質であり、移築にあたり、取替材もほとんど不要だと思われる。
壁石に見られる亀裂について
 下の写真の点線部には亀裂(隙間)が見られ、石橋全体が崩壊しつつあるような印象を
与える。また矢印Bは輪石が一部破損している。
 この亀裂(隙間)の発生した原因を、次のように仮定してみる。
 創建当時、両岸ともに現在の左岸同様、輪石の下にほぼ垂直な基礎石垣があったのでは
ないか。何らかの理由で、右岸基礎石垣がハラミ始めると、当然裏込背面の土砂は負圧に
なり、写真Aの壁石はずり下がる。右岸側基礎石垣が下がると輪石全体は右岸の方へ傾き、
左岸のCの壁石部分にも隙間ができる。
 右岸基礎石垣のハラミは矢印Bの部分から下で発生しており、矢印Bの部分はまだ輪石の
一部であるが、座屈基点として最もストレスが高いために一部破壊されている。
 そこで、右岸基礎石垣の前の石垣積みは、ハラミを止めるために練積で施工された。
 という仮定が裏づけられれば石橋の亀裂(隙間)は、石橋自体の構造の欠陥によるもの
ではないことがほぼ証明される。
 まだ72年しか経っていないので、創建時か、ハラミ出した姿を記憶している人が存命
のはずである。地区の古老や、市役所建設部OBなどから情報を得ておけば移築時の重要
な参考資料になり、移築費用の低減にもつながるはずである。
 また、丁寧な現状観察および精密な調査測量とその記録は、復元時の費用低減には確実
に役立つもので、疎かにするほど復元費用は嵩むことになるので注意が必要である。
以上 2003/2/21